前回は「レコードコレクターズ」3月号で紹介されている70年代シティポップアルバムから、私の気に留まったアルバムを紹介させていただきましたが、今回は4月号で特集されている80年代シティポップアルバムの中から、前回と同じような形式で紹介したいと思います。
多様化する80年代シティポップ
80年代に入ると、70年代のシティ・ポップ王道路線を行くアーティストもいれば、これまでとは少し違った要素を取り込んで、都会を感じさせる音作りをするアーティストも出てきました。
松田聖子さんなどに見られるように、シティポップを担うアーティストによって提供された楽曲がヒットしたことにより、歌謡曲とシティ・ポップの垣根がグッと下がってきました。
そのおかげで、シティ・ポップサウンドが身近になり、70年代当時は前衛的で一部の評論家に批評を受けたサウンドは、80年代では違和感はなくなってきました。
80年代は新しいサウンドが多く開花し、それらは受け入れられていきましたが、そのキッカケとなったのは、Yellow Magic Orchestra(YMO)の功績も大きかったと思います。
気になるアルバム
「レコードコレクターズ」4月号では、山下達郎さんのような王道シティポップも紹介されていますが、松田聖子さん、南野陽子さん、渡辺満里奈さんといったアイドルのアルバムなど、幅広いアルバムが紹介されています。
あまりに幅広いアルバムが紹介されているが故に、これは違う、これも入れるべきなど、人によって大分意見が分かれそうな気がします。
ここでは、前回の70年代シティポップのところで紹介したアーティストの80年代のアルバムは、あえて入れてないので、70年代のところで挙げたアーティストで、気に入った方がいたら、そのまま80年代のアルバムも追って行ってみてください。
個性はそのままに、時代に合った音を駆使した素晴らしいアルバムに仕上がっています。
寺尾聡 / Reflections(リフレクションズ)
80年代シティポップと言われて真っ先に頭に浮かんだアルバムが、このアルバムで、当時、ほとんど歌謡曲しか聴いたことがなかった私には衝撃的にカッコいいサウンドでした。
シングル「ルビーの指輪」が大ヒットしたこともあり、このアルバムもかなり売れました。
当時こういった類のレコードを買わなかった友人も「Reflections」を持っていて、まさに一家に一枚「Reflections」という感じでした。
1曲目の「HABANA EXPRESS」のキレキレのリズム、楽器がシンクロするキメフレーズ、そして胸に響くような魅力的な低音ボイスなど、アルバムを通して、おしゃれ、大人、シティ…そんな言葉が頭に渦巻くアルバムです。
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東北新幹線 / THRU TRAFFIC
鳴海寛さんと山川恵津子さんのユニットで、唯一のアルバム。
全体的にメロウ(ゆったりとしたテンポで柔らかい雰囲気)で、テンションノートたっぷりのカッコ良くておしゃれな雰囲気満載です。
鳴海寛さんは、山下達郎さんのバンドのギタリストとして、山川恵津子さんは作曲編曲等のスタジオワークを中心として活躍された方です。
山川恵津子さんは、かなり幅広い歌手に作品を提供しており、特にアイドルへの楽曲提供が多く、岡本舞子さん、渡辺満里奈さんなどのファンの方々にはお馴染みの方だと思います。
鳴海寛さんの軽やかな声と、山川恵津子さんの可愛らしい感じの声が交互に、又は同時に響き渡り、聴いていて、とても心地よいアルバムです。
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早瀬優香子 / SO・UTSU
「あばれはっちゃく」のマドンナ役など、子どもの頃から女優として活躍していた早瀬優香子さんの1stアルバムで、アイドルポップのような雰囲気があります。
可愛らしい声で言葉をポツポツと切りながら囁くように歌う独特の歌唱法で、ちょっと山下久美子さんの声に似た感じがします。
歌というよりつぶやいているような曲から、吉川晃司さんの「モニカ」のような派手なベキベキ?サウンドのノリの良い曲まで、従来のシティ・ポップの枠にとどまらない個性的でバラエティに富んだアルバムです。
このアルバムには収録されていませんが、シングル「椿姫の夏」を動画サイト等で是非聴いてみてください。
一風堂の「すみれSeptember Love」に似た曲調と歌声にハマったら、とことんハマると思います。
今年(2018年)タワーレコード限定で復刻されていますので、気に入ったら早めにゲットしてください。
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児島未散 / Best Friend
アイドルのような可愛らしく爽やかな歌声を持つ児島未散さんの1stアルバムです。
耳になじみやすいメロディーとシティ・ポップのキレのあるサウンドで、アルバムジャケットのイメージ通りの爽やか、カッコいい、時にはしっとりというアルバム構成になっています。
作曲には林哲司さんが絡んでおり、オメガトライブのサウンドを想像していただくと分かりやすいと思います。
アイドル的な雰囲気のあった頃の竹内まりやさんが好きな方には、特におすすめです。
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来生たかお / 遊歩道
1982年にリリースされた来生たかおさんの8thアルバムです。
来生たかおさんは、どちらかというと歌謡曲歌手への楽曲提供も多いせいか、シティ・ポップという言葉がピンとこないかもしれませんが、そのサウンドはやはりシティ・ポップです。
取り立てて「遊歩道」がシティ・ポップ色が強く出ているという感じはしませんが、全9曲収録さているうちの5曲を坂本龍一さんがアレンジしているところが、このアルバムの一番の特徴だと思います。
このアルバムに収録されている自身のシングル「疑惑」は、中森明菜さんが歌ってもおかしくないようなマイナー調(悲しげな曲調)の秀逸な曲なので、ぜひ聴いてみてください。
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西松一博 / 貿易風物語
昭和初期のタンゴやワルツのリズムを用いたノスタルジックな歌謡曲にテクノをスパイスにしたような感じのするアルバムです。
このアルバムを聴いた時、YMOの「Fire Cracker」や高橋幸宏さんのアルバム「音楽殺人」のようなテイストを少し感じました。
王道シティ・ポップとは異なるアレンジが施された「貿易風物語」というアルバムは、山下達郎さんのように高音が艶やかにスパーンと伸びていく西松一博さんの声と相まって、非常に個性のあるアルバムに仕上がっています。
シティ・ポップの中で変化球的アルバムを探している方には、是非聴いていただきたいアルバムです。
なお、このアルバムはCD化されていませんが、2018年にLPとして復刻されました。
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ラジ / 午後のレリーフ
ラジ(※女性の方です)は、1973年にフォークデュオでデビューした後、ソロデビューしましたが、この「午後のレリーフ」は、ソロデビュー後の6thアルバムです。
サウンドは、従来のシティ・ポップですが、1984年にリリースされたこともあり、より洗練された音になっています。
「レコードコレクターズ」4月号では、このアルバムが紹介されていますが、個人的におすすめしたいのは、このアルバムではなく、1979年リリースの「Quatre(キャトル)」と、1980年リリースの「真昼の舗道」です。
ラジのアルバムにはYMOの面々が関わっており、先に挙げた2枚のアルバムは、シティ・ポップサウンドとテクノサウンドのブレンド具合が巧みで、強い個性を放っています。
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中原めいこ / ロートスの果実
「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」のヒットで知られる中原めいこさんですが、この曲以外は知らないという方に聴いていただきたくて、このアルバムを選びました。
「ロートスの果実」には、5th~7thまでのシングル(「エモーション」「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」「スコーピオン」)が収録されていて、全体的には「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」のようなトロピカルサウンドを意識したアルバムになっています。
「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」の作詞は、中原めいこさんと森雪之丞(もり ゆきのじょう)さんとの共作となっていますが、それ以外の曲は全て中原めいこさん自身が作詞作曲しており、特にマイナー調の曲を聴いていると、時折、八神純子さんや久保田早紀さん顔が思い浮かんできます。
キレのあるギターカッティング、華やかなホーンセクション、スラップを使いながら軽快に動き回るベースといったシティ・ポップサウンドに重厚感を加えたようなアレンジが、中原めいこさんの作り上げるキャッチーなメロディーをより引き立てています。
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AB’S / AB’S-3
SHOGUNの芳野藤丸さんやスペクトラムの渡辺直樹さん、岡本敦男さんらによるバンドで「エイビーズ」と読みます。
シティ・ポップにも色々なタイプがありますが、この「AB’S-3」は、爽やかスッキリというよりは、ドッシリとした重みを持ったファンキーなリズムに、渋い歌声が乗るという感じです。
一糸乱れぬリズムから繰り出されるグルーブに、聴いていて胸が熱くなります。
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ラ・ムー / Thanks Giving
ラ・ムーは、アイドルだった菊池桃子さんが脱アイドル宣言をするのと同時に結成されたバンドです。
突然アイドルからバンドのボーカリストに転向した菊池桃子さんをリアルタイムで見ていた方と、後追いでラ・ムーに辿り着いた方とでは、ラ・ムーの音楽の印象は、大分違うかもしれません。
活動期間は約1年程度で、リリースされたアルバムは、この「Thanks Giving」1枚のみですが、コーラスの黒人女性2人をバックに従え、ファンクやR&Bの上質なリズムを聴かせてくれるバンドでした。
当時は、バンドに転向したにもかかわらず、相変わらず声量のない歌唱法と、今まで見たことのない菊池桃子さんのぎこちない動きから、ラ・ムーは評価されるどころか、失笑の対象としてネタになるような風潮がありました。
しかし、インターネット環境により、色々なジャンルの音楽を浴びるほど聴くことの出来るようになった現在では、甘くフワッとした歌声と完璧なリズム隊で構成されるラ・ムーの音楽に、唯一無二の個性を感じることと思います。
現在(2018年)、「Thanks Giving」はCD、アナログレコード共に高値で、入手困難な状態ですが、mora等の音楽配信サイトではダウンロード購入が可能です。
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山口未央子 / 夢飛行
シンセサイザーを多用したサウンドで、寺尾聡さんのアルバム等を担当した井上鑑さんなどがアルバムに参加していることから、テクノ歌謡やテクノシティ・ポップという雰囲気が漂っており、山口未央子さんの耳に残る独特のメロディーも癖になるアルバムです。
途中から職業作曲家に転向しますが、80年代アイドルで言えば、岡田有希子さん、斉藤由貴さん、CoCo、吉田真里子さん、川越美和さん、渡辺満里奈さん、高井麻巳子さんなど、多数の歌手に楽曲提供をしています。
気になったらアルバムクレジット等を確認して、山口未央子さんの作り出すメロディーを味わってみてください。
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その他のおすすめアルバム
「レコードコレクターズ」4月号で紹介されている80年代シティ・ポップアルバムは100タイトル程度あり、その中で耳に留まったアルバムは、70年代シティ・ポップ以上にありました。
そのため、紹介文を載せるアルバムを上記程度に厳選しましたが、それ以外でも是非チェックしていただきたいアルバムを以下に書いておきます。
時間のある時に聴いてみてください。
- 尾崎亜美 / POINTS
- 安部恭弘 / スリット
- 稲垣潤一 / リアリスティック
- 木村恵子 / AMBIVA
- 矢野顕子 / グラノーラ
- 長谷川孝水 / 日々の泡
- 佐野元春 / Someday
- 大瀧詠一 / ロングバケーション
- 竹内まりや / ヴァラエティ
- 松原みき / ポケットパーク
- EPO / ダウンタウン
- 杉真理 / Stargazer
- 村田和人 / ひとかけらの夏
- タイム・ファイブ / Gentle Breeze
- ケン田村 / Fly By Sunset
- テストパターン / アプレ・ミディ
「レコードコレクターズ」には紹介されていませんでしたが、是非聴いて欲しいのは、泰葉(やすは)さんの曲。
井上鑑さんもアレンジに関わっており、寺尾聡さんの「Reflections」のようなカッコよくキレキレのサウンドに、上から下まで力強く、艶やかで声量のある歌声に圧倒されることと思います。
「フライデー・チャイナタウン」「水色のワンピース」辺りを聴いてみてください(^^♪
まとめ
80年代シティ・ポップは、シンセサイザーの存在感や録音技術の向上などから、70年代よりも、より多様化し、もはやシティ・ポップという枠ではくくれない印象を持ちました。
当時は、シティ・ポップという言葉はほとんど聴いたことがなく、こういった音楽の事をニューミュージックと呼んでいましたが、読んで字のごとく、80年代は新しい音楽が次々に飛び込んでくる刺激的な時代でした。
「レコードコレクターズ」4月号では、上記に挙げたアルバム以外にも、まだまだたくさん紹介されていますので、ご自身の琴線に触れるアルバムに出会うべく、是非「レコードコレクターズ」に目を通してみてください。
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